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院長ブログ

アメリカの「人工眼」承認のニュース

アメリカの「人工網膜システム=人口眼」承認のニュースが華々しく報道されています。

残念ながら私がアメリカ留学中に所属していた「ボストン・ルイビル」グループではない、カリフォルニアの会社の製品でしたので、我々のグループは開発競争に敗れた、ということになるでしょう。

どの報道機関も、通信社が配信したニュースを編集して報道しているように思われましたので、実情に一番近いと思われる東京新聞の記事から引用してみました。

埋め込み人工眼 米で初承認
【ワシントン共同】米食品医薬品局(FDA)は14日、小型カメラがとらえた映像情報を眼球の奥に埋め込んだ電極に無線送信し、失われた視力の一部を回復する人工眼を米国で初めて医療機器として承認した。

遺伝子異常などで視細胞が徐々に光を感じなくなる「網膜色素変性症」が対象。症状が進んでほとんど物が見えなくなった25歳以上の患者に適用される。

物がはっきり見えるまでには回復しないが、症状に応じて物体の輪郭や明暗、動きが判別できるようになると期待される。FDAは「患者が日常生活を送る助けになる可能性がある」としている。

人工眼は、米カリフォルニア州の医療機器会社セカンドサイト社が開発した「アーガス2」。眼鏡に取り付けた1個の小型カメラと、携帯型の映像処理装置、映像情報を電気刺激に変える埋め込み型の人工網膜で構成する。同社によると欧州ではすでに承認されている。

30人が参加した臨床研究では一定の視力回復がみられたが、うち11人に2年後までに結膜のただれや、網膜剥離、手術の傷痕が開くなどの副作用が出た。

FDAの審査パネルは承認に先立ち「患者の利益がリスクを上回る」と評価していた。

私が「実情に一番近い」という表現をしたのは、最後の2文が削られている報道が多く、現状を正確に伝えられていないな、と感じたからです。新聞に掲載された写真のような「ごつい」システムを眼球に装着すれば、そういった副作用が起きることは眼科医としては容易に想像できますし、一般の方にも相当な違和感があるだろうことはお分かりいただけると思います。

例えば、現在、体の中に埋め込む機械で実用化されているものの代表に、心臓の「ペースメーカー」がありますが、もし使う方の30人のうち11人(実に約40%)に「皮膚がただれる」「傷口が開く」などの副作用がでてしまっては、安心して使うことができません。

それを押してでも認可したFDA(日本の厚労省にあたる機関です)の意図は、乱暴な言い方をすれば「目が見えない方が、ほんのひと時でも光を取り戻すことができる可能性があるという大変な価値に比べたら、その後再び失明しても、痛みや副作用などが出ても、それは取るに足らないことですよ」ということなのかもしれません。

これはもう、価値観というか宗教観というか、日本人には理解しがたい欧米人の不思議な懐の深さで、アメリカで暮らしてみて初めて、なんとなくではありますが私も感じることのできた感覚でした。これは欧米人に日本人の「粋(いき)」や「絆(きずな)」を理解してもらうのと同じくらい難しいことだと思います。

当然厚労省ではこうはいかないでしょう。石橋をたたいて叩いて、これでもかと安全性を確認したうえで認可にこぎつけることになると思います。ですのでこの分野ではどうしても日本の研究者は後れを取ってしまいますが、やむをえません。今日本での最先端の研究をされている大阪大学のチームを始め、早期実現を目指し、理化学研究所のiPS細胞移植のグループにも負けないくらい頑張っている先生が大勢おられます。日本での実用化は、さらに小型化、洗練された、もっと安全で誰でも安心して使えるもので実現されることでしょう。

次回はこの「人工眼」の構造や性能について解説します。