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院長ブログ

涙に関する悲しいエピソード

今日、定期的においで下さる80歳の男性の患者様(Tさん)が、いつも通り受診されました。

「先生、涙が出ちゃってねぇ。涙が止まる薬、出してもらえませんか?」

私は、よくある老人性の流涙症(目頭にある涙の抜け道がつまって、行き場を失った涙が下まぶたにたまる現象)かと思い、
「では、診てみましょう」と、いつも通り診察を始めようとしたところ、

「昨日、妻が亡くなりましてね」

私は、とっさに二の句が継げませんでした。いつもお元気で、にこにことされている方でしたが、言われてみれば最近元気がないのを、見抜けなかった私がうかつでした。

奥様が亡くなられた翌日に受診にいらしたのは、闘病の末の覚悟ができておられたのでしょうか、寂しさを軽い冗談で紛らわせるためのお言葉だったのでしょうか、細かい事情はお聞きできませんでしたが、そのお気持ちを察すると切なく、思わず私も涙ぐんでしまいました。

一通り診察が終わり、

「心からお悔やみ申し上げます。そんなときは、どうぞ大いに涙をながしてください、Tさん」と言葉をかけることが私のできる精一杯でした。

悲しい時、つらい時に涙を流すとすっきりする事があります。科学的な根拠はありませんが、涙には嫌なこと、つらいこと、悲しいことを洗い流してくれる不思議な力が確かにあります。

私がかけた言葉が適切だったかは自信がありませんが、涙を流し、時間が流れることで、Tさんの悲しみが少しでも早く癒えていくことを願ってやみません。