院長ブログ

近視の進行予防の現状

今回は、世の中の親御さんみなさんが気にされている、といっても過言ではない「わが子の近視の進行予防はできるのか?」について、現在、眼科で行われている研究成果などの現状をご報告したいと思います。少し長いですが、できるだけわかりやすくなるように説明に努めますのでおつき合いください。

<どうして近視になるの?>

ものをはっきり見るには、目の奥の網膜に見たいものが鮮明に映る必要があります。それは、目の奥行きの長さ=「眼軸長」とレンズ(水晶体)の屈折=「焦点距離」のバランスで決まります。バランスがいいと、焦点がちょうど網膜に合うので、網膜に映る像がはっきりします。それが「正視=目の良い人」です。カメラでいうと、被写体にぴったりピントが合った状態です。正視jpeg

一方、その2つのバランスが悪く、焦点距離が眼軸長より短いため、網膜よりも手前に焦点を結んでしまう、それが「近視」です。時々、どこにピントを合わせたらよいかわからずにカメラやスマホが迷っている時の、ボケた画面がそれにあたります。近視jpeg

眼軸長はお子さんの成長に伴い2歳まで急速に、それ以降は10歳まで徐々に伸びてゆきます。その分、水晶体の屈折力が減る=焦点距離が伸びてゆくことで、バランスをとっています。ところが水晶体の変化は8歳までで、8歳以降、水晶体の屈折力は変わらなくなります。それ以降に眼軸長が伸びてしまうとその分近視が進行する、という仕組みです。そのため、近視は8~16歳に進行することが多い、という研究結果が出ています。

<近視になりやすい諸条件、環境>

統計では、近視は東洋人に多い傾向にあります。あるデータを元にすると、日本人の近視率は50%以上でした。そのため、残念ではありますが「日本人であること」は「近視になりやすい」条件の一つ、ということになります。

また、ご両親のうちの1人またはお2人ともが近視であることで、そのお子さんは近視になりやすい傾向にあります。これは私の推測ですが、お顔立ちが似ている親子は、当然目の形も似ているわけで、前述の眼軸長と焦点距離の関係も同じように引き継いでいるためと思われます。「近視は遺伝する」科学的な根拠はありませんが、まことしやかにそう言われるのは、こんなところからきているのではないでしょうか。

したがって、日本人で、ご両親のどちらか、またはご両親ともが近視、ということになると、もうそれだけで「近視になりやすい」という条件に関してはかなり確率が高くなる、ということになります。

その他でわかっていることは、①30cm未満の距離で読書をする ②30分以上持続して読書をする ③野外活動の時間が短い などが近視を進ませる可能性があることは実証されているようです。近年では「読書」を「ゲーム」「スマホ」「タブレット端末」に置き換えてもよいわけです。昔から言われる「本を読むときは姿勢良く」「のびのび外で遊ばせる」ことは、あながち間違ってはいないということになります。ちなみに「高学歴」「IQが高い」ことも、近視になりやすい条件です。これは勉強を頑張った結果の副産物かもしれません。

一方、近視を進ませないようにすると言われている慣習や工夫、例えば「遠くを見せる」「目に良い緑を見せる」「目をよくするトレーニングをする」「目をよくする本を見る」等に関しては、近視の進行予防の明らかな根拠となる研究結果はでていないようです。

<近視予防の研究成果>

動物実験では、近視が進行する=眼軸長が伸びる理由が一部解明されていて、それを元にした人間の近視の進行予防も研究されています。

①メガネ
必要以上に強い度のメガネでは、眼軸長が延びて近視を進行させてしまう恐れがあります。「メガネをかけると余計に目が悪くなる」と言われるのは、合わないメガネを使っている場合に限ってのことです。そのため、メガネ作製の際は、正確な度数にすることが近視の進行予防につながりますので、必ず眼科で検査を受けて正しい度数の処方箋を発行してもらうことが大切です。ちなみに「メガネをしたり外したりするのは目に良くない」というのも根拠がありません。

遠近両用メガネ(境目のないタイプ=累進レンズ)を子供が使うことで、近視の進行を抑制する効果が確認されています。目とメガネの位置などデリケートな調整が必要で、効果には個人差がありますので評価が難しいのですが、ご希望の方には当院のメガネ外来でも処方、作製できるようにしています。

③コンタクトレンズ
コンタクトレンズもメガネと同様で、度の強すぎるものは近視を進行させる原因になり得ます。必ず眼科を受診の上適切な度数を確認して、購入することが大切です。

近視矯正のために就寝中にコンタクトレンズをつける「オルソケラトロジー」でも近視進行予防の効果が報告されていましたが、最新の研究では低年齢では効果を認めるものの、12歳でメガネとの差がほとんどなくなることが分かりました。はたして小児の目に寝ている間にコンタクトをつけて悪くないものか議論の余地があり、一般のコンタクトレンズと比べ角膜の傷や感染の確立が高いことから安全性の点からも問題があるように思いますので、私は積極的にはお勧めしていません。

③目薬
瞳孔を広げる作用のある目薬を、低濃度で使うことにより近視の進行予防の可能性がある、という研究結果が出ています。現在、日本のいくつかの大学病院で臨床試験が行われていますが、まだ実証、承認されるまでには至っておりません。毎日欠かさず点眼し、少なくとも2年間継続する必要があります。現在、保険適応外で販売されているところもあるようですが、当院では臨床試験の結果を待って、慎重に導入を検討する予定です。

④バイオレットライト
ある研究機関の最近の研究で、目に悪いと言われているブルーライトよりも波長の短い「バイオレットライト」を、むしろ浴びることで、近視進行予防の可能性がある、という報告が出ています。「バイオレットライト」は屋外のみで浴びることができる光線なので「外で遊ばせる」ことが近視の進行予防になることの科学的な根拠になる可能性がありますが、ブルーライトは目に悪いからカットして、バイオレットライトは浴びないといけない…とややこしく、この相反する2つはいずれも同施設からの報告ですので、他の多施設で科学的に実証できるまでは時間がかかりそうです。

このように、ほとんどがまだ研究段階で、いずれの方法も近視の進行予防の切り札にはまだなりえない様です。

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以上、わかりやすく書いたつもりですが、クリアカットに「これは予防にいい」「これは近視が進むからダメ」と言い切れないことが多く、切れ味の悪い曖昧な文章に終始してしまって申し訳ありません。

私なりにまとめてみますと
①はじめから近視にならないようにする方法はないようだ:あくまでのそのお子さんが持つ目の素質により決まってくるから。
②必要以上に近視が進むのを予防する方法はありそうだ:「正確な検査をもとに作ったメガネやコンタクトレンズを使う」「外遊びなどのびのびと、健康的な生活を送る」「姿勢をよくして、勉強をしたり本を読む」「長時間のゲーム、スマホ、テレビは控える」
③既存のトレーニングや特殊な道具は、あまり役に立たなさそうだ:遠近両用レンズに期待だが、目薬やバイオレットライトも検証中とのことで、その結果が出るまで待とうか、悩みどころ。

とまあ、従来言われているような、当たり前のところに落ち着きます。

一般的には「近視になる」=「目が悪い」という認識ですが、見方を変えれば、近視になると裸眼で近くを見るのに不便がないため、夜遅くまでテレビやパソコン、スマートフォンを見る現代の生活に目が適応してきている、という説もあります。また、近視の方は将来「老眼」=「近くが見づらい」にもなりにくいというメリットもあり、「近視の方は人生の前半は損をすることもあるが、後半はその分得をする。視力の良い人はその逆である」というのが、50歳間近にして、老眼が始まったと思われる私自身の率直な感想です。

今は、大人になるとできる視力矯正の方法が増えてきました。今の子供たちが大人になるころには、安全で確実な方法が確立されていることを期待しましょう。

(この記事をまとめるにあたりまして、日本眼科学会専門医制度 生涯教育講座 総説54 小児の近視の進行予防 著者:大阪大学 不二門 尚先生 を参考にさせていただきました。)

(この記事は、2013年12月20日の旧ブログ記事を改定して掲載いたしました)

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