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院長ブログ

色覚検査と色覚異常 (色覚異常と診断されたら)

学校で行われる目の健康診断には、おなじみの視力検査の他に、色の識別ができるか確認する色覚検査があります。我々が子供の頃は視力検査同様、全員に行われていたのですが、平成15年に実施義務が全廃され、その後は希望者のみ任意に行われるようになっています。

その検査で「色覚異常の疑い」と指摘されたら…今回は色覚異常についてご説明いたします。

<色覚異常の原因>

色覚異常は、ほとんどが先天性(生まれつき)のものです。色覚異常が発生する原因は「性染色体」という誰もが持っている遺伝子にあり、性染色体は必ず次世代に受け継がれていきます。いわば色覚異常は、先祖代々受け継がれていく「素質」で、それを未然に予防することはできません。発症率は男性では5%(20人に1人)、女性では0.2%(500人に1人)程度ですが、色覚異常が発生する遺伝子を持っている(保因者といいます)女性は約10%と、比較的多いことはあまり知られていません。

つまり40人学級で男女半々だとすると、色覚異常の男の子は1人、保因者の女の子は2人いる計算になります。

<色覚異常ではどう見える?>

色覚異常の方の見え方は、色のない「白黒の世界」ではありません。色は見えますが、その組み合わせによって「見分けがつきにくい」状態です。例えば「赤と緑」「ピンクと水色」「赤と黒」などです。生活の中で良くある例としては「ピンクと水色の歯ブラシを取り違える」「焼肉の生焼けと焼けたものの区別がつかない」などがあります。ただしその識別能力の程度は個人差が大きく、それを正確に特定したり再現したりするのは困難と言われています。

当院では、簡易的に色覚異常の見え方を体験できる「色覚異常体験メガネ:バリアントール」をご用意しておりますので、色覚が正常なご家族の方には、その場でお試しいただいております。

またご家庭でも、「色のシミュレータ」という無料アプリを使うと、スマホやタブレットのカメラを使って、色覚異常の方のおおよその見え方のシミュレーションをすることができます。iPhoneやiPad、アンドロイドのいずれでも使用できます。App StoreやGoogle Playで「色のシミュレータ」と検索し、ダウンロードしてください。

<色覚検査の問題点>

実はこれまで、「遺伝する」という理由だけで、色覚異常について様々な偏見や差別を生んだ悲しい歴史があり、今に至っています。それはほとんどが、色覚異常に対する無知、無理解からくるものでした。そのため、以前使われていた「色盲」「色弱」という紛らわしい言葉は使われなくなり、児童全員に対する色覚検査も廃止されたのです。

ところが、全廃から10年以上経って、色覚検査をしないできた方たちのなかに、進学や就職時に色覚異常が発覚し、適正で問題が生じて不利益をうけたり、戸惑ったりするケースが出ていることがわかってきました。

例えば、飛行機のパイロット、電車運転士、自衛官、警察官などごく一部の職種や、デザイナー、調理師など色の見分けが必要とされる職業、また地域の規定によって就職に制限を受ける職業があります。不運にも自分の希望した職業に該当してしまう場合もあるため、眼科医の団体からの働きかけで、今では辛うじて希望者のみ、学校で個別に、プライバシーに配慮した形で色覚検査が受けられるようになりました。

一般的にはこの制限は緩和されている傾向にあり、色の区別がつきにくい人でも見分けられるような「カラー・ユニバーサル・デザイン」という考え方も世の中にだいぶ浸透してきましたので、さらに緩和されていく方向にあります。

また、今後はこれまで慣習として残っていた古い基準も、現状に即して見直されるべきでしょう。例えばパイロットでは、「航空業務に支障を来すおそれのある色覚の異常がないこと(航空法施行規則)」が条件になっていますが、曖昧で基準がよくわからないため、色覚異常者は諦めざるを得ません。例えば「緊急時でも、空と海の色の見分けが瞬時につくこと(これはあくまでも私が考えた例で、航空会社や国土交通省がどう考えているかは分かりません)」など、きちんと具体例も交えて希望者には伝える説明責任があると思います。(もし緊急時に作動するパイロットランプの色が問題なのであれば、位置や形などの工夫で対応する、というのがカラー・ユニバーサル・デザインの基本的な考え方です)

<お子さんが色覚異常と指摘されたときの家族の心得>

まずは先天的なものか、他に病気がないか見極めるために眼科を受診してください。

先天的な色覚異常の治療の方法は今のところありません。色覚異常と聞いて、狼狽したり、色の識別力を試そうとしがちですが、不用意な言動などで不安感や劣等感を抱かせたり傷つけたりしかねません。親御さんが、遺伝だからと責任を感じる必要はありませんし、家系をさかのぼって調べるのも意味がありません。色の識別訓練など効果はありませんので、あくまでもそのお子さんの「個性」と考え、対処すると良いでしょう。

具体的な対処方法を述べるとかなり長い文章になってしまいますので、ここで、色覚異常について書かれた本を2冊、ご紹介いたします。

・「色弱の子を持つすべての人へ」  栗田正樹  北海道新聞社

著者の栗田氏は、色覚異常でありながらデザイナーをされている方です。これまで経験されたことも交え、色覚異常について全般的にかなり詳しく網羅されていますので、これ1冊で色覚異常のことはほぼすべて分かります。

・「色弱の子どもがわかる本」  岡部正隆  かもがわ出版

著者の岡部先生は、東京慈恵会医科大学の解剖学の教授で、やはりご自身も色覚異常者です。日常生活でどのような場面が不自由で、その個々の具体的な対処方法が詳しく書かれています。

ご自分や家族が色覚異常を指摘された方で詳しく知りたい方、あるいは医師から充分な説明が得られずお困りの場合などは、この2冊を参考になさると良いでしょう。

<最新の研究成果>

実は最近の研究では、色覚異常がある方が見分けやすいものがあることが分かっています。 中南米に生息するサルが餌として昆虫を捕まえる場合、カモフラージュしている昆虫を見分けて捕食する能力が、色覚異常のサルの方が3倍近く効率が良いことが分かっています。確かに赤・緑の色コントラストには弱いけれども、逆に明るさのコントラストや形や形状の違いに非常に敏感なのだそうです。その研究をしている先生は、色覚異常は「異常」でなく、「多型」、つまり個性なのだとお考えのようです。もし色覚異常が生き残っていくのに不利ならば、生物として何千年の人類の進化の過程で淘汰されているはずなのが、脈々と息づいているのは、その証拠だともおっしゃっていました。

また、個性的な絵で知られるゴッホやターナーなど著名な画家も、色覚異常であったと言われています。つまり、自由に色を扱う職業はむしろ制限がないということもできます。

「色覚異常」は、みなさんその言葉は(「色盲」「色弱」も含め)知っているようでその実情はあまり知られていないのが現状です。不必要な落胆、誤解、偏見を防ぐためには、より正確な情報を世の中に広く知らしめることが、我々眼科医の使命であることは、私もこの記事を書くにあたって色々と調べてみた結果、実感した次第です。

このブログが、色覚異常を正しく知る一助になれば幸いです。