先日、理化学研究所の高橋政代先生がプロジェクトリーダーの、iPS細胞を使用した「滲出性加齢黄斑変性」の臨床研究にゴーサインが出されました。
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厚生労働省の審査委員会は26日、理化学研究所などが申請していたiPS細胞を使う臨床研究計画を承認した。目の難病になった患者が対象で、2014年夏をメドにiPS細胞を使った初の治療が国内で始まる。京都大学の山中伸弥教授が人のiPS細胞を開発してから6年あまりで、同細胞を使う再生医療が実現に向けて大きく動き出した。
臨床研究は理研の高橋政代プロジェクトリーダーと先端医療振興財団(神戸市)などが計画し、今年2月に厚労省へ申請した。目の網膜の病気で失明の恐れもある「加齢黄斑変性」という難病が対象で、日本人に多い「滲出(しんしゅつ)型」の患者に実施する。物がゆがんで見えたり視野の中心部が暗く見えたりする。国内に70万人の患者がいるとされ、根本的な治療法はない。
同日開いた厚労省の審査委員会は国の指針に基づいて審査し、安全性や倫理面で問題はないと結論づけた。ただしiPS細胞ががんを起こさないことなどを確認するとの条件を付けた。7月中旬に厚生科学審議会(厚生労働相の諮問機関)の科学技術部会で審議に諮って厚労相に答申。理研などが臨床研究を実施する。実質的な審査は今回で終わった。iPS細胞の臨床研究が承認されたのは世界で初めて。
高橋プロジェクトリーダーは「正式な通知を受けていないので詳細は分かりませんが、慎重かつ迅速に審査していただいた。(委員会から出た)条件については詳細を確認した上で対応したい」とのコメントを発表した。
研究は同財団の先端医療センター病院(同市)と神戸市立医療センター中央市民病院が連携して手がけ、8月にも患者の治療に向けた準備を始める。患者の中から50歳以上で既存の薬が効かず、眼鏡などで矯正しても視力0.3未満などの条件を満たした6人を選ぶ。患者自身の皮膚などの細胞からiPS細胞を作った後、シート状の網膜細胞に育て患者の網膜の傷んだ部分と入れ替える。皮膚細胞からシートを作るには約10カ月かかるため患者の目に移植する治療は来夏になる見込み。治療を受けた患者は視力の大幅な回復は難しいものの、病気の進行は抑えられ、失明は避けられると期待される。
今回の臨床研究は安全性を最優先して進める。移植してから1年間は1~2カ月に1度の頻度で検査し、その後も3年間は経過を観察する。iPS細胞はがん細胞になる可能性が指摘されているが、目はがんになりにくいとされている。万が一、がんになってもすぐに診断できるうえ、治療も比較的容易であることなど患者の安全面を配慮した。
全国の病院で多くの患者が治療を受けられるようになるには、今回の臨床研究が成功するかどうかを慎重に見極める必要があるため、時間がかかる見通し。
(日本経済新聞 6月26日の記事より)
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普段、私は日経は読まないのですが、この記事に関しては非常に詳しく、しかも分かりやすく書けていて、私の説明も必要ないくらいでしたので引用させていただきました。少し補足すると、黄斑部に移植したiPS細胞が万が一がん化した時は、通常の眼底検査などで見つけられます。また治療はレーザーでがん細胞を焼き殺す方法をとります。これは外来で可能なため、患者さんの負担になる入院や手術が不要であることも、慎重な厚労省から早々に承認が下りた要因の1つでしょう。
「時間がかかる」はどのくらいなのか、この治療の確立を心待ちにしている方は誰しもが気になることと思います。私のあくまで独断的な予想ですが、期待している最も良い結果を得られれば7年~10年、通常なら20年くらいではないかと思います。
今回はあくまで「滲出性加齢黄斑変性」限定の臨床研究ですが、「網膜色素変性症」など、現在有効な治療方法のない病気におかかりで、この研究の成果を心待ちにしている患者さんもたくさんおられます。外来でも今回の報道について何度もお問い合わせを受けました。そうした多くの患者さんの期待が、1日でも早く実現する事を願いつつ、最新の情報を漏らさずお伝えすること使命を果たすべく、アンテナを張り巡らせる毎日です。