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院長ブログ

今さら「国宝」

2025年で、巷の話題を大いにさらった映画は何といっても「国宝」ですね。

共演した2人の主演俳優の迫真の演技、伝統・様式美、厳しい稽古や家柄・承継などの問題と内容盛りだくさん。美しい映像と相まって、もうその評価は言い尽くされていますので、ここでは言及しないでおきます。

私も一時期、歌舞伎にはまっていた時期がありました。初めて歌舞伎を観たのは、初心者向けイヤホンガイドのある公演。それで初めて、メイクや衣装、大道具や小道具、効果音や音楽のそれぞれにちゃんと意味があることを知りました。その時の演目が、「平家女護島(へいけにょごがしま)」と「仮名手本忠臣蔵」。最初は難しいセリフ回しを聞き取るのに難儀していましたが、ガイドを頼りに聞いているとだんだん慣れてきて分かるように…。内容もいわば「人情もの」で、主人公の切なさを思うと思わず涙が…。え、まさか初歌舞伎で涙するとは…。

江戸時代から続く庶民の芝居ですから、想像をはるかに越えた、本当にどこもかしこもよくできたいわば「エンターテインメント」それが歌舞伎でした。

それからというもの、いくつか演目を見ていくうちに、美しい踊りを見せ場にしている演目と、ダイナミックな筋書きや演出、舞台装置を見せ場にしている演目があることがわかり、私は断然後者の方が楽しめました。

まだ学生でお金のないうちは一幕見席か花道なんて見えない(入口の幕が開く音しか聞こえない)3階席で観ていました。でも3階席でもとても良いこともあって、「義経千本桜」で当時の猿之助さんが宙乗りをしたときに、本当に手の届きそうなところを狐になった猿之助さんがワイヤーにつられて通っていくのには、のちの花道で役者が入場してくるのを観たときより興奮しました(笑)。この伝統に則っていない派手な演出を「ケレン」というそうですが、現代の歌舞伎を語るうえで欠かせない演出で、三代目市川猿之助(のちの猿翁)と五代目中村勘九郎(のちの勘三郎)の2人の貢献は大変大きかったのではないでしょうか。医師になって5年ほどたってから、やっと1階席の後ろの方で花道も観られるようになりました。

「於染久松色読販(おそめひさまつうきなのよみうり)」の早変わり七変化、「東海道四谷怪談」の仕掛け、「女殺油地獄(おんなごろしあぶらのじごく)」のおどろおどろしさ、そして「心中天網島(しんじゅうてんのあみしま)」の複雑な人間模様など…。

今回の「国宝」では、女方2人が主人公なだけあって、「藤娘」「鷺娘」「娘道成寺」など、主に踊りを見せる演目が多かったように思います。その美しさに魅了され、歌舞伎に興味をもったり、実際に鑑賞に行かれる方も増えたことでしょう。でも私がお勧めしたいのは、むしろダイナミックな演出の方。ストーリーも大変良く出来ていて、映画好きであれば、絶対に気に入ることと思います。

幕が開いて、照明に照らし出された舞台の美しさ、そして始まるお囃子の音、主人公の登場や盛り上がる場面で観客からかかる「○○屋!」の声…このすばらしい総合芸術が、これから後世に残すためにも、是非みなさんも機会があれば歌舞伎の舞台を観に行って欲しいと思います。