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院長ブログ

iPS細胞移植の手術成功のニュース 

これまでたびたび取り上げてまいりましたiPS細胞による目の治療の可能性が、また一つ進みました。

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人工多能性幹細胞(iPS細胞)を用いた臨床研究を進めている理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(神戸市)などのチームは12日、目の難病のため視力が低下した兵庫県の70代女性に、iPS細胞から作った網膜の細胞を移植する世界初の手術を行った。女性の容体は安定しており、手術は成功したという。山中伸弥京都大教授が開発したiPS細胞が初めて人への移植に使われたことで、再生医療研究は新たな段階に入った。

臨床研究の主な目的は安全性の検証。移植した細胞が根付くか、がんになる危険がないかなどを4年かけて確認する。視力回復の効果があるかも併せて調べる。
研究代表の高橋政代理研プロジェクトリーダーは「手術が無事終わり安堵(あんど)している。広く使える治療にするため、どんどん進まなければいけない」と述べた。

移植を受けたのは、網膜のうち光を感じる「神経網膜」へ栄養を送る「色素上皮」に異常な血管が生え、視力が低下する「滲出(しんしゅつ)型加齢黄斑変性」の患者。手術では右目の異常な血管と、血管が生えて傷んだ色素上皮を除去。患者本人の皮膚から作ったiPS細胞を色素上皮の細胞に変え、1辺が1.3ミリ、もう1辺が3ミリの長方形のシート状にしたものを代わりに移植した

患者は症状が進み、視力も0.1に満たないため、期待できる治療効果は進行を止める程度。今後も数人の患者で安全性と効果を検証し、将来は大幅な視力回復につながる治療法にできる可能性があるという。(2014/09/12 時事ドットコムより抜粋)
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もちろん世界初。例のSTAP細胞論文ねつ造疑惑などで大揺れに揺れた理化学研究所(当時は高橋先生も体制への不信感を表明していました)でしたが、雑音に屈することなく、しっかりと研究を進めていく高橋先生とグループの先生方の強い信念に敬意を表します。

ただ、華々しい報道の中でも真実はしっかり押さえておかなければいけません。上の記事にもありますが、今回の手術の目的はあくまで「安全性の検証。移植した細胞が根付くか、がんになる危険がないかなどを4年かけて確認する」ことであって、「視力回復の効果があるかも併せて調べる」のは、いわば〝おまけ”なのです。もともと自分の体の一部でない細胞を移植した後、それが体の一部に同化(生着)すること自体が大変難しいことですし、ましてや正常の網膜と同じ機能を発揮できるようになることは、目の治療の研究者にとっては〝夢のまた夢”と言っていいくらいのことなのです。

手術を受けた患者様は「術後、周囲が明るく見えた」とコメントされているようですが、これはおそらく同時に行われたであろう白内障手術(通常、網膜の手術をする場合は目の内部がよく見えるように、白内障手術も同時に行います)の効果と思われ、iPS細胞移植による効果ではないことも付け加えておきます。

今回の報道で「加齢黄斑変性」はじめ難病で視力を失っている多くの患者様の期待が一気に高まっていること思いますが、高橋先生ご自身も言及されているように、「治療と呼べるようになるまでは10年はかかる」、つまりそれより短くなる期待は薄く、それ以上になるかもしれませんし、最終的に期待していた程の結果が得られないという場合も、残念ながら可能性としてありうる、のです。iPS細胞による目の治療の研究は、日本が最先端を行っていますので常に注目の的ですが、高まる期待を少し抑えて、冷静に見守っていきたいところです。

=追伸=
このニュースは当然全世界に発信され、これからは諸外国でも研究が盛んになっていくことでしょう。残念ながら日本では、こういった研究基盤が諸外国に比べて脆弱であることはたびたび指摘されています。特に環境、資金、人材など、すべてが強大なアメリカに対抗するのは大変なことです。今まで日本では「清貧」が良しとされるからか、研究には膨大な費用がかかることを声高にすることは〝卑しい”と誤解されることもあるようで、一般の方々にはあまり知らされていないように思います。実際、研究用の器具や試薬は、一般の製品と比べると需要が少ないがゆえに単価が高く、正確な結果を出すためにはほとんどが使い捨てられますので、一つの研究を成就させるまでには大量に消費することになります。研究者の人件費もないがしろにされがちです。

そこで、欧米諸国を差し置いて最先端を進んでゆくこのすばらしい研究が滞ることのないように、わたしも本当にささやかながら、iPS細胞研究の一助になるようにと寄付をさせていただきました。かつて網膜治療研究に携わっていた者として、ほんの微々たるものですがお役に立てれば、との気持ちからです。もし同じお気持ち、あるいはご興味がおありの方は、下記のサイトをご参照ください。今回の目の臨床研究に役立つばかりでなく、iPS細胞の研究に携わる多くの研究者の方々に、お力をお貸しいただけましたら幸いです。

http://www.kikin.kyoto-u.ac.jp/contribution/ips/index.html