「近視」を取り上げた前々回(→クリックでリンク)「遠視」の前回(→クリックでリンク)に引き続き、今回は「老視(老眼)」についてお伝えいたします。
「老眼」といいますが、始まりは「老」には程遠い40歳頃からです。近くが見えづらくなる、特に最近ではスマホの画面をやや離さないと読みづらい、というのが始まりの指標になります。目の良い人や遠視の人はより早い時期から自覚します。
「調節」の仕組み
前回のブログで、遠視の人は、近くを見るときにはピントを合わせるためにより「調節」を使って見ていると説明いたしました。「調節」は「水晶体」という目の中のレンズの厚みを変えることで得られます。「水晶体」は「レンズの形をした透明なグミ」だと思ってください。そのグミを、引っ張ったり緩めたりして厚みを変えます。それを担っているのが「毛様体筋&毛様小体(チン小帯)」のコンビです。
遠くを見るとき
毛様体筋が緩み、毛様小帯に引っ張る力がかかると水晶体グミは引き伸ばされて薄くなります。その結果焦点距離が長くなって遠くのものが見えるようになります。
近くを見るとき
逆に毛様体筋が緊張して縮むと、それにつながる極細ワイヤの毛様小帯が緩んで水晶体グミは厚くなります。その結果焦点距離が短くなって近くのものをみることができるようになります。つまり近くのものを見ている間、毛様体筋は常に緊張したままでいないといけません。
なぜ老眼になるのか?
「調節力」が落ちてくるからです。2つ理由があります。
・毛様体筋が働かなくなる:筋力低下によるものです。
・水晶体グミが固くなる:主に酸化による変性により、柔軟性がなくなってきてしまいます。
いずれも年齢に伴う変化です。最初に「老眼は目の良い人や遠視の人はより早い時期から自覚する」とお話ししましたが、近視の人は調節をしないで近くが見えるのに比べ、目の良い人や遠視の人は、近くを見るときに調節を使わざるを得ないからです。そして遠視が強くなればなるほど、老眼の症状は早く強く出てきます。
老眼は予防できる?
年齢に伴う変化ですから、避けようがないように思えます。でも、年齢の割に老眼症状が出てない人もいます。それは例えば…私自身です。現在52歳、もともと目はよかったので、条件と年齢からすると、かなり老眼も進んでいてよいはずなのに、いまだに老眼鏡はかけていません。そこで私自身の目の使い方や生活習慣を自分なりに検証して、これかな、と思われるものを挙げてみたいと思います。(ただしこれはあくまで私の個人的な見解で、医学的なエビデンスはありません)
①毎日遠近の調節を繰り返すのが良い?
診察の際に眼科医がひんぱんに使うのが「細隙燈(さいげきとう)顕微鏡」です。目の構造を詳しく見るのに使います。のぞいた時にレバーを前後してピント合わせをしますが、忙しくて時間がおしいときは、レバー操作と同時にある程度自分の調節力を利用してピント合わせをします。それを1日何十人と繰り返します。毎日鍛えられている気がします。また、通勤は車の運転を40分。前方、メーター、ミラー越しに後方を瞬時に切り替えながら常に確認しています。特に夜間の高速では、スピードメーターと後ろから迫ってくる覆面パトカーに気を使っています。鍛えられている気がします。
➁温めるのが良い?
目をつぶって、ゆっくりお風呂に浸かって1日の疲れを癒す。それだけでも目の緊張がほぐされる気がします。診療時間中は、常に水筒に白湯を用意し、合間のお茶代わり。内臓を温めることで、目を直接温めなくても何だか緩む感じです。
③乱視があるのが良い?
乱視は、生まれつきのいわば部分的な近視です(次回詳しく説明します)。はっきりではないものの、ある程度近くにピントを合わせるのにうまく利用しているように思います。
皆さんができることとして
私のつたない検証を踏まえて、こんな提案をしてみたいと思います。
①毛様体筋の衰え対策
実際に鍛えられるかどうか定かではありませんが、常に一定の距離を見続けるよりは遠くを見たり近くを見たりを繰り返している方が衰えは少ないように思います。私と同じように、毎日運転している方、ぜひ安全運転でお願いします。事故を起こさないように、常に前方、後方、手元に目を配りましょう。一般の方には私のように顕微鏡を使われる機会はほとんどないでしょうから、その代わりにネットで探すと調節の体操のようなトレーニングもあるようですので、試してみるのも良いでしょう。
“肩こりには温泉”は日本人の定番です。固くなって動きが悪くなった筋肉は温めるのが一番。市販のホット○○マスクまでしなくても、濡らしたタオルをレンジでチンしたおしぼりを当てる。お風呂にタオルを持ち込んで、お湯につけたら目の上に載せるのも良いでしょう。眼球のマッサージは、構造に及ぼすダメージを考えると、やめた方がよさそうです。
➁水晶体の硬化対策
最近注目される「抗酸化」が大切です。「睡眠不足」「ストレス」は大敵です。食事はバランスよく、野菜を多めにが基本です。食が細い方や偏っている方は、抗酸化物質の含まれるサプリメントもお勧めです。(当院では、眼科の症状に特化したサプリメントを販売しています→ 詳細はこちらをクリック)「温め」も水晶体が固くなるのを防ぐほどではないにしろ、効果を期待してもよいと考えます。
③やっぱりメガネを使う
年齢に伴う変化にはどうしても抗えないこともあります。見えないのに無理してメガネをかけないでいるのはむしろストレスや眼精疲労の原因になります。響きの悪い「老眼鏡」ではなく、おしゃれな「リーディンググラス」として、適切な度のメガネを、便利な道具として大いに活用しましょう。
当院では、メガネの専門外来で、初めて「リーディンググラス」を作られる方のサポートをしております。お電話でご予約の上、お越しください。
以上、今回のブログは医師が提供する情報としては、科学的にやや信ぴょう性に欠けるかもしれません。あくまでも一人の中年男性の経験則が中心ですので、ご容赦いただけましたら幸いです。