今年は久しぶりに花粉の多い年になりました。
昨年まではコロナで外出を控えていた方が多いうえに、スギ花粉の飛散量も例年以下でしたので、比較的症状が軽く、「もう花粉症は治ったのでは…?」と感じられる方もいたようでしたが、残念ながらそうではなかったようです。
スギ花粉に加えて、その後からヒノキ花粉、さらには黄砂もやってきて、ひどい症状が長く続いているのも今年の傾向です。
花粉が多い年に一番かわいそうに感じるのは、その年発症した小さなお子さんです。原因も分からず急に目のかゆみが出現し、子供ですから我慢できずゴシゴシこすってしまい、さらに悪化する…鼻水が常に流れ、夜は鼻腔粘膜が腫れてしまうので鼻が詰まって夜眠れないなどの症状で、大変つらい思いをいたします。
その症状に応じて、私たち医師は薬を処方するのですが、症状が強い場合に処方するのが「ステロイド」です。目薬、点鼻薬や、内服薬にもに含まれているものもあり、あまり一般的ではありませんが、ステロイドを皮下に注射する治療をする医師もいます。
「ステロイド」と聞くと、主にスポーツ分野で「筋肉増強剤」として使われる「禁止薬物」として認識されることが多いですが、元々は人間の体の中(副腎皮質)で作られるホルモンの一種で、抗炎症作用、抗ストレス作用、抗アレルギー作用があり、健康維持に欠かせないものです。そのため、医師の処方の下で正しく服用すれば、安全かつ大変有効な薬です。例えば、アトピー性皮膚炎、喘息、リウマチなどの治療には欠かせないもので、コロナ感染症の治療にも一部使われています。
今年のように花粉症の症状が強く出るときには、一般的に第1選択薬として使われる「抗アレルギー剤」の点眼ではかゆみを抑える効果は不十分なので、ステロイドの点眼を処方します。ただし、かゆいからと言って(あるいは予防的に)ダラダラと長期間使っていると、副作用として目の内圧である「眼圧」が上がってしまうことがあります。必ずしも使っている人みなさんに起こるわけではなく「ステロイドに反応する体質の人(Steroid Responder)」に起こりやすいのですが、眼圧は多少上がったくらいでは自覚症状がなく、ご自身で気づくことはありません。眼圧が高いまま放置してしまうと、圧迫された視神経がダメージを受け、「緑内障」になって視野が欠けてしまいます。そして一度欠けた視野は治療しても戻りません。
そのため、ステロイドを使う方(お子様も含め)には、症状改善の様子と眼圧が上がっていないか確認するための再受診をお勧めしています。そして眼圧の上昇傾向がある場合、ステロイドの使用を中止すると、通常眼圧は正常化します。ただし、長期に使っている場合は中止しても正常化しない場合があり、その時は眼圧を下げる目薬や手術が必要になることもあります。
先ごろ、国民生活センターから「患者が健康茶を飲用していたところ、血液検査の副腎皮質ホルモン等の数値が低下し、飲用を止めてもらったところ、数値が回復したため、健康茶に抗炎症・抗アレルギー作用のあるステロイド成分が混入されていることが疑われるとの情報が寄せられました。当センターで購入した同銘柄の商品を調べた結果、説明書や通信販売サイトには、花粉症への効果をほのめかす記載がみられ、医薬品成分のステロイドが含まれていました。これらは、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律上問題となると考えられるとともに、飲用されている方への健康影響が懸念されましたので、消費者へ注意喚起することとしました」という告知が出されました。この健康茶「ジャムー・ティー・ブラック」は、「花粉症によく効く」と複数の芸能人が愛飲し、SNS等で紹介されていたようです。
今回問題の健康茶のステロイド含有量は微量で、副作用を引き起こすほどではなさそうですが、外からホルモンを取り込むと人間の体はそれに合わせて必要な量のホルモンの生成を抑えるように働きますので、「血液検査の副腎皮質ホルモン等の数値が低下し、飲用を止めてもらったところ、数値が回復した」と考えられます。長期にわたりステロイドを外部から摂取すると、副腎の機能障害を起こす可能性もあり、この度の注意喚起になったものと思われます。
世の中にはその他にも、「花粉症に効く」とうたわれたりほのめかしたりする健康食品や飲料があります。この時期にわざわざ混雑しているクリニックに受診するのは煩わしい、ということでそのような商品を好む方もおられます。効果が感じられるならそれでも良いのですが、成分が明らかでないものは注意が必要ですし、今年のように症状がひどい場合は西洋医学が一番効く、というのが我々医師の実感です。
症状が悪化した今年をきっかけに、体質改善によるスギ花粉症の寛解療法「舌下免疫療法」(→詳細はこちら)を始めることにした患者様も多いようです。当院では5月の連休明けより新規開始患者様を受け付けます。辛い思いをされた方は、ご検討されてはいかがでしょうか。(補足:今年は治療を始められる患者様が多く、メーカーの製造が追いつかないようで、現在薬局で在庫切れを起こしている関係で、当院では新規に開始する方の予約を一旦中止しております。再開しましたらホームページのお知らせ欄で告知いたします。ご不明点はクリニックにお問い合わせください)