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院長ブログ

読書バリアフリー

先日発表された芥川賞。市川沙央さんの「ハンチバック」が受賞されました。

彼女は10歳の頃から、筋力低下が持続する難病の「先天性ミオパチー」を患い、重度の身体障害があり、人工呼吸器と電動車椅子を常用しています。受賞のコメントでは「読書バリアフリーが進んでくことを訴えたくて」と語りました。また作中では、著者と同じ疾患を患っている設定の主人公に「私は紙の本を憎んでいた。目が見えること、本が持てること、ページがめくれること、読書姿勢が保てること、書店へ自由に買いに行けること。5つの健常性を満たすことを要求する、読書文化のマチズモを憎んでいた。その特権性に気づかない、「本好き」たちの無知な傲慢さを憎んでいた」と語らせています。

なるほど、目が見えて、冊子を開いて、押さえて、ページをめくるという動作ができないと、本は読めません。今回の市川さんの、そして作中の主人公の言葉に、ハッとさせられました。市川さんはさらに「2023年になるまで、重度障害の芥川賞受賞者が出なかったのはなぜなのかみんなに考えて欲しい」という、文壇や社会への投げかけもされていました。

重度の視覚障害者にとって、読書をするときの頼りは点字図書、または音声で朗読されたものを再生する録音図書。ところが、点字を読める訓練を受けている方は視覚障害者の1割ほど。いずれも翻訳や録音など作成に時間がかかり、新刊本が出てから点字図書や録音図書として利用できるようになるまで数カ月~半年かかります。

2019年には「読書バリアフリー法」が施行され、時間差が生じないよう、出版社からテキストデータの提供を促す環境整備が必要とされていますが、出版社側はデータ提供によって海賊版が出回ることを懸念し、残念ながら進んでいないのが実情だそうです。翻訳をするのにボランティアの方が中心に行っているのも、時間がかかる要因になっているようです。

最近ではAmazonなどでは冊子の書籍と並んで購入できる、プロが朗読する音声データ「オーディオブック」が増えてきました(Amazonでは「Audible(オーディブル)」)。私はたまに購入し、行きかえりの車の中で聴くことがあります。ビジネス書などは1.5倍速などで内容を網羅、理解できるので非常に便利なのですが、唯一の欠点は値段が高いこと。冊子の2倍かそれ以上の値段がします。作るのに手間がかかっているので当然なのですが、気軽にたくさん買うのは躊躇してしまいます。そのため、本当に聞きたいものを年に1~数冊、厳選して購入します。

画面上の文章を自動的に読み上げてくれるソフトやアプリもありますが、作家さんの魂のこもった文章から、文学の香りをつたえられるほど精巧にできているようにはまだまだ思えません。テクノロジーが発達し、データの共有化が進んで、どんな障害があっても気軽に読書を楽しめるような、そんな世の中になってほしいですし、是非みんなでそうしていきましょう!

(このブログを書くにあたりまして、8月26日(土)東京新聞朝刊の記事を参考にいたしました)