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院長ブログ

薬が足りない!

今、日本の医療が危機的な状況になっていることは、世間ではあまり知られていません。

薬が足りないんです。

正確に言うと、必要なだけの量が充分供給されていません。

眼科の薬では「ジクアスLX」というドライアイの目薬が、本来含まれているべき防腐剤の量が規定に満たなかったため、自主回収、出荷停止になっています。そのお薬が使えないとなると、その代わりのお薬の需要が増えます。今回は「ヒアレイン(ヒアルロン酸ナトリウム)」というお薬がそれに当たりますが、需要が増えるのですからどんどん増産すべきなのですが、お薬は原料調達や製造ラインの稼働に限界があり、明日からたくさん作ろうとしても難しい一面があります。なおかつ、必要なところに確実に行き渡るよう、そして将来枯渇しないように、代わりの薬には逆に「出荷制限」がかかるのが、製薬業界の通例です。つまり現場では通常より多く欲しいのに、逆に少なくしか流通しなくなるため、処方を変更したり、本数や日数を普段よりも減らさざるを得ない状況になっているのです。

眼科の領域では、少し前までは消炎剤の点眼(ステロイド剤)が同様でした。花粉症のある春は、かゆみ止め効果の高いステロイド剤は需要がぐっと増える時期ですが、あるメーカーの目薬が、原料の調達不備で増産できないため、効果の弱い別の目薬だけで患者様には我慢をしていただくことになりかねませんでした。その時は幸い、他のメーカーが頑張って増産してくれたため何とか患者様に辛い思いをさせることなく、事なきを得ました。

現在も続いているのはステロイド剤の軟膏の不足です。まぶたの皮膚が荒れたり腫れたりしたときに使う薬ですが、いくつか種類があり、ステロイドの強さがそれぞれ異なります。症状に応じて適切な強さのお薬を処方するのですが、供給が不安定なため、結果的に「そのときにあるお薬」を使っていただくことになります。そうなると、強いお薬を使いたいのに弱い薬しか処方できなかったり、あるいは子供のように本来マイルドなお薬を使いたいのにそれがなく、しかたなしに副作用を気にしながら強いお薬を処方せざるをえないこともあります。

また、外来で急きょ必要になった麻酔の薬剤を注文しようとしたところ、「出荷調整中で2週間後でないと納入できません」と言われる始末。それでは急なケガなどで、処置をしようと思っても、麻酔なしでするしかない、ということになりかねません。

でもこれは、今に始まったことでも、眼科領域に限ったことでもありません。

コロナ禍では、解熱鎮痛剤が不足しました。年末年始にかけては、咳止めが足りなくなりました。花粉の時期には、一部の抗アレルギー剤の供給が不十分でした。今は慢性的に抗菌剤(抗生剤)の内服が不足していて、それぞれの細菌に効果の高いお薬が自由に選べなくなっていたり、子供用の薬剤が足りないので、薬局では大人用のカプセル薬を解体し、中の粉を測って子供に処方したりしていると聞いています。

これまで日本では製薬メーカーから潤沢な供給があり、医師が出したいお薬を常に出せる、非常に安定した環境にありました。ところが最近では「あれがない、これが足りない」という情報が氾濫し、まるで僻地か発展途上国で診療をしているかのような状況で、今までからは考えられない劣悪な医療環境に陥ってしまっています。

しかも、おそらくパニックをさけるためにだとは思いますが、この状況がほとんど報道されないので、不足しているお薬を使用する必要がある患者様一人ひとりに状況説明をしなければなりません。それに数十秒~1分かかるとしたら、該当する患者様が60人いるとすると、診療がそれだけで(最大)1時間も延びてしまって、患者様をお待たせする原因にもなってしまいます。

供給不足の原因は、それぞれの薬によって様々です。世界情勢が不安定になって原料の流通が不安定になるとか、地震で工場が被害にあうとか(北陸は製薬メーカーの多い地域です)、単なるメーカーのチェックミスとか…ですが、本当の原因は、何だかもっと根本的なところにあるような気がするのです。

それは、医療費削減にやっきになっている厚労省、財務省の締め付けにより、医療界、特に製薬メーカーの体力が依然と比べ格段に落ちてしまい、不測の事態に対処できる余力がなくなってしまっているように感じています。

日本の医療は「誰でも、安価に、高いクオリティの治療が受けられる」と世界でも高い評価を得てきました。でもこのままでは「医師はいるけど、薬は出せない」などという、これまでは考えられなかった状況に陥ってしまう危険性さえ感じています。それを避けるためには、今の状況と真摯に向き合って改善していくための施策を、行政、医療従事者、製薬業界が一丸となって検討していく必要があるのではないかと強く思う、今日この頃です。

そして今、実際にご不自由な思いをさせてしまっている患者様、大変申し訳ありません。今しばらくのご辛抱、ご協力をよろしくお願いいたします。必要なお薬の供給、流通が、一刻も早く以前のようにもどることを願います。