先日「小児のブルーライトカットメガネ装用は、悪影響を与えかねない」という声明が、日本眼科学会はじめとする眼科の6団体連名で出されました。
20210414_bluelight.pdf (gankaikai.or.jp)
「学会」は、日本全国の名だたる専門のドクターが集まっている団体で、診療や病院経営に関するルールを定めていく責任があります。今回の連名は、日本の「視力の診療に関わる団体全て」といってもよいと思います。
ここで指摘されている問題のポイントをまとめますと
①デジタル端末から出るブルーライトは、目に障害を与えるレベルではない
②小児は太陽光を浴びることで目の成長を促し、近視進行を抑制できる可能性があり、ブルーライトカットはそれに逆行する
③眼精疲労を軽減する効果は全くないと、アメリカで報告されている
④睡眠障害についてはいくつか論文が出ているが、就寝前ではなく日中にブルーライトカットメガネをつける有用性は根拠に欠ける
というものです。
今回の声明であえて「小児」限定で指摘をされたのには理由があります。
ある大手メガネチェーン店が、東京のある自治体で小中学生全員に度の入っていないブルーライトカットメガネを無償で配ろうとしました。レンズ交換が必要なら1回までなら無料で交換することも約束されていました。しかしそれが問題になったのです。
実はこれと同じようなことを、神奈川で横浜DeNAベイスターズが数年前に行っています。DeNAベイスターズは、神奈川県内の小学生全員に、ベイスターズの野球帽を無償で配りました。これが大当たりしまして、ベイスターズのファンは激増し、観客動員数も増えました。
今回のメガネチェーンはその手法を踏襲したのではないかと推測します。ところが、「帽子」と「メガネ」では決定的な違いがありました。
帽子はもらった後、特に手はかかりません。サイズ調整も自分でできますし、洗濯も自宅でできます。ですので、一律に配ってもご家庭で完結し、お子さんたちに不利益や害はないといえます。
メガネは、たとえ度のないものでも顔に合わせてサイズを選ぶ必要があります。目の幅に合わせたり、顔の凹凸に合わせて調整する必要もあります。度入りのレンズが必要な場合は、きちんとした検査をして正確な度数を割り出したうえでレンズ交換をしなければいけません。顔に合わないメガネをかけることで、鼻や耳に傷がつくこともありますし、度の合わないメガネでは逆に近視が進んでしまうなど、有害事象が発生する可能性があるのです。そういった説明もなく、また検査を担う眼科医に断りもなくことを進めてしまったようなのです。
そこで、眼科の学会が連名でストップをかけたわけです。こういった声明は、相手にも配慮して表現もオブラートに包んで少し柔らかい表現にすることが多いのですが、「装用を推奨する根拠はなく」「発育に悪影響を与えかねません」とかなり強い表現になっているのはそういう訳です。そして現在のところ、予定されていた無償配布は行われていないようです。
というわけで、出る杭は打たれる、今回のブルーライトカットメガネ騒動の裏話でした。
以前私はブルーライトカット眼鏡に関しての記事を挙げました。そこで想定していたのは大人が使う場合で、万人に必要なものではなく、使いたい人は使えばいいし効果も限定的という立場をとっておりまして、今でもそれは変わりません。
「ブルーライトカット・メガネって効果あるの?」
https://www.k-eye.jp/blogs/2014/01/27/post-176/
また、当院の公式YouTubeチャンネルの動画でもお話ししておりますので、どうぞそちらもご覧ください。