「オンライン診療」とは、パソコンや携帯を介して、医師が患者さんのお話を聞いた上で機器のカメラを使って診療し、必要なお薬の処方と診療費のお会計までできる、大変便利なシステムです。お薬は近くの薬局に取りに行くか、薬局によっては取りに行かなくても宅配便で届けてくれるところもあります。
日々お仕事で忙しくされていてなかなか受診ができない方、小さなお子さんがいて一緒に連れてくるのを遠慮している方、ご高齢で体力的にお出かけになれない方などは大変重宝されるかと思いますし、何より今では病院やクリニックに受診することによる新型コロナウイルスの感染のリスクを心配しなくてよいという大きなメリットがあり、昨年から普及しつつあります。
当院でも、コロナ対策の一環として2020年6月よりオンライン診療を開始いたしましたが、この度、2021年の1月一杯でいったん中止することにいたしました。
理由は2つあります。
1つ目は、機器のカメラによる診察の限界です。
私たち眼科医の診察に欠かせないのは、「顕微鏡」です。正式には「細隙灯顕微鏡」といい、眼科の診察室には必ず置かれているもので、ほとんどの患者様の診察をこの機械で行います。目は小さな臓器で、大変精密にできています。そのため、診療に当たってはどんな小さな変化も見逃すわけにはいきません。「細隙灯顕微鏡」は、レンズの組み合わせによって50倍~320倍もの倍率で、目の微細な構造を観察できます。実際にその倍率でなおかつ特殊な照明の当て方でないと分からない病気の症状もあります。(詳しくはこちらの動画で紹介していますので是非ご覧ください)
残念ながら、パソコンや携帯のカメラは、いくら昔より進化してきれいな写真が撮れるようになっていたとしても、そこまでの精度はありません。光の当たり具合によっては、見たい部分が影になってよく見えないこともあります。
精度の低いカメラを通して診療できる病気は、かなり限られてしまいます。これまで当院でオンライン診療を受けられた方は、幸いいずれも診断、処方は可能でしたが、病状によっては、患者様が期待されるような充分な診療ができないことが危惧されました。ましてや見落としは、医師として絶対にあってはならないことです。そのリスクを負ってまで続けるべきではないと考えました。
2つ目は診療時間の確保の難しさです。
今回、当院で設定していたオンラインでの診療時間ですが、昼休みの14:00~14:45の間でした。普段の診療時間中にもオンラインでの診療時間を設けなかったのは、あくまでも来院された患者様を優先したかったからです。このコロナ禍でわざわざご来院された患者様は、感染のリスクを心配されていますので、できるだけお待たせせずに早く診療を終わらせてお帰り頂く必要があります。来院された方の診療の合間にオンライン診療を挟むと、その分お待たせする時間が長くなってしまいます。そのため、オンライン診療の方は来院されずにリスクの少ない分、ご不便をおかけしてしまいますが診療時間の制約を設けさせていただくことにしました。そのため「いつでもどこでも受けられる」オンライン診療のメリットの「いつでも」は、当院では実現できませんでした。
例えばお話を伺いそれに対してお薬を処方するカウンセリングに近い診療や、血圧測定など普段から自宅で健康管理ができるような病気に対する診察や処方などでは、オンライン診療は大いに役立つと思います。半年間実施して感じたのは「オンライン診療に適した科と、そうでない科がある」ということです。そして眼科は残念ながら〝今のところ”「そうでない科」に当たります。
〝今のところ“と敢えて断ったのは、昨年、スマホに取り付けるだけで細隙灯顕微鏡の代わりになるデバイスが開発されたことが発表されたからです。開発したのはOUI Inc.(→クリックでリンク)という眼科医3人が立ち上げたベンチャーで、取り付けた特殊カメラで撮影した画像をもとに診断支援アプリで診断をするというシステムです。
今のところ途上国や被災地などでの診療への応用など、1台のカメラで多くの患者様を診察することが前提のようです。このカメラをオンライン診療に使うためには、患者様がこのカメラを持っていることが条件で、さらに「自撮り」をする必要があるという問題はありますが、いまのスマホのカメラでは捉えられなかった目の細かい変化や症状も分かるようになれば、眼科のオンライン診療でできることもずっと広がり、多くの患者様に安心して「遠隔医療」を提供できるようになるという期待があります。
今回、当院のオンライン診療は一旦中止いたしますが、こうした最新の情報を常に取り入れて、今後皆様に自信を持って提供できる体制を整える努力を継続し、それが実現できた暁には再開する予定です。それまでは、どうか今しばらくお待ちください。