先日、電車に乗ろうと駅のホームで待っていました。到着した電車のドアが開くと、車内から20代くらいの白い顔をした女性が、手すりを伝い歩きのようにして、他の乗客にぶつかりながら降りてきました。私は最初、顔を白塗りにしてコスプレでもしているのかと思ったのですが、降りて2、3歩でホームの上に電車と平行にバターっとうつぶせに倒れてしまいました。どうも貧血で顔が青ざめていたようなのです。
片足がホームと電車の隙間に落ち込んでいて危険だったのでとりあえず引き上げて救出し、電車からできるだけ離れた場所まで体を移動させました。息もある、脈も正常、話しかけると何とか反応あり。か細い声ですが会話もでき、電車で酔ってしまい車内で気分が悪くなり、休憩するためにひとまず降りたとのことでした。
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実は眼科の診療中にも、貧血を起こす患者様が時々いらっしゃいます。男女問わず若い人に多い傾向があり、よくあるのが目の患部を触られて痛かったり、処置でピンセットなどを使ったときに起こります。恐らく痛みに弱く繊細な方や、いわゆる「先端恐怖症」のある方などのようです。
それは何の予告もなく起こることが多く、注意が必要です。診察台に載せたお顔がガクガク震え始め、そのうちスーッと体が後ろに倒れていきます。私や診察室にいるスタッフは初めは驚きますが、その後は冷静に対処しなければいけません。まず倒れて頭などを打つと危ないので、崩れ落ちないように私とスタッフでしっかり体を支えます。その間に他のスタッフが車椅子を用意して、診察室の奥にあるベッドに移動して寝かせるようにします。その時完全に意識を失って脱力していると、患者様の体は非常に重たく感じますので、数人がかりでないと車椅子に移すのが難しい場合もあります。華奢な患者様の場合は、私がいわゆる「お姫様だっこ」のような形で抱き上げ、直接ベッドに運んだこともありました。
念のため血圧を測って確認することもありますが、大抵の場合は横になって10分もすれば回復してきます。ご一緒のご家族もびっくりされますが、一番驚いているのは何が起きたか分からないご本人です。状況を説明し、水分補給をしてから無事にご帰宅頂きます。
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さて、その駅のホームの女性ですが、周りに人はたくさんいるのに横目でチラ見しながら皆さん足早に去って行ってしまいます。かろうじて一人の女性が「駅員さん呼びますね」と申し出てくれましたが、その方も駅員さんに声をかけた後そのまま行ってしまわれたのか、現場には戻ってこられませんでしたので、駅員さんが来てくれるまでの間、女性を介抱していたのは私一人だけ…なんともやるせない気持ちになりました。都会ってそんなものなのでしょうか…。
このような場面に遭遇した時には、研修医時代の救命救急の経験が生きているように思います。またスタッフも院内でAEDの講習会をしていますので、具合が悪くなった方へのお声がけや確認事項を学んでいます。とにかく人手はあればあるほど助かります。「どうしたらいいかわからない」ではなく、どうか通り過ぎずに、勇気を出してお声がけいただければ幸いです。そのお声がけが、だれかの命を救うかもしれません。